新刊「daughter」について
- tachibana izumi
- 2022年10月10日
- 読了時間: 2分
本日製本されたものが届き、ひとつひとつ検品しているところです。
この詩集の刊行は、自分の中では必要な経過であったと思っています。次に作りたいものがあって、
そこに至るまでにどうしてもこれを残しておきたかったという1冊。
冒頭の詩を引きます。
小鳥
後ろ手をくんで
前かがみになるひとの
尾が長くて
つかまえたいわけもないけれど
指がからみにいってしまう
一歩また一歩とゆれるたび
この顎と指先が
ひとりでに従って
垣根を越して大通りの
遊歩道まで来てしまった
ポストにいれるはずだった封書はぬれて
窓のかたちに滲む
緑色の尾はまだ滞らず
信号を右折
ひよりひより
山内さんちの裏手を過ぎて
朝山神社の境内をまわり
銀杏の木の下
ようやく腰をおちつける
ここには芳醇な餌場があって
ほかの尾もめくるめく声をあげながら
つつきあっているのがみえる
淡い黄色の
プラスチックのバケツには
どんぐりや椎の実が投げ込まれ
スコップをただの鐘として
かたかたと
入れ歯のように打つ祈り
かわいた砂に上がる
もしも尾が開くなら
鮮やかな露をあびながら
指を離すこともできるのに
あれは頑なに
手のひらで土を盛る
あの木には
落ちた墨汁みたいな洞があり
薄いわたしは怯えるけれど
尾は尾を振るだけ
見上げることすら一度もなくて
狭い庇の中
きゅっと世界を握り続けている
この他34篇、全154頁
「daughter」2022.10.25発行 税込2,000円

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